VOL.23
買い付けで渡米するたびにいろんな人と様々な出会いをする。
行く度にお世話になる人、顔見知りになったお店屋さんのお姉さん、
そこに行くと、必ず待っているおなじみの顔がある。
逆に、たまたま居合わせた人たち、例えば、飛行機で隣になった人、
ス−パ−マ−ケットで同じ列に並んで、レジ待ちしていた人・・・とか。
直接会話をしたわけでもなく、もう2度と出逢えなそうな人たち、
そんな、一度きりの短時間の出会いの中でも、やたらとインパクトがあり、
忘れたくても忘れられない、旅の土産話にひと花咲かせてくれる人たちもいる。
そんな人たちを「DAWA日記」では、【旅ネタな人たち】と命名した! |
◆困った隣人(その1)◆
ある朝、隣の部屋のオヤジのゲホゲホの咳の音で目が覚めた。1度や2度ならまだしも、延々と繰り返し全く止む気配がない。なんともいえぬ寝覚めの悪さ。身支度するにもまだ早いし面倒くさい、しょうがないからテレビをつけてボ〜としてると、テレビの音までも隣のゲホゲホでかき消される。なぜかこのオヤジの咳はとても耳障りなのだ。
まず、周りに迷惑をかけてることに気づいてないのか、遠慮せずに豪快にやっている。その次に、咳の前に必ず「オェ〜」と言う。この「オェ〜」は内蔵でも吐き出すのではないかと思うぐらい、強烈な「オェ〜」だ。こちらとしては、な〜んか「オェ〜」を無理矢理やって咳を出してるように聞こえ、イヤガラセかよぉ〜と思いたくなる心境だ。
しばらくして私たちは行動開始。出かける準備が整い、車に荷物を運び出そうとした。すでにとなりのオヤジは、車に荷物を運ぶのに部屋と車を行ったり来たりしているようだ。ゲホゲホの音が近かったり遠かったりで、動き回っているのを感じとれる。そんなことをしながらも、相変わらず「オェ〜ゲホゲホ」だ。さらに外なもんだから、プ・ラ・ス「クワァ〜トォッ」とタンまでも、はき始めているのが聞こえてきた。どんなヤツかと思い切りドアを開けて外に出ると、そこにはお菓子の「ドンタコス」のコマ−シャルに出てきそうなメキシコ系のオヤジがいた。
そのオヤジの車の周りには、あるはあるはタンというかゲロというかそんなものでいっぱいだった。おまけに、口を拭いたのか鼻をかんだのか使用済みのティッシュまでもがそこら中に散乱していた。こっ汚いたらありゃしない。
見なきゃいい物をこわい物見たさでマジマジと観察してしまい、思わず「オェ〜」と、そしてそれにむせて「ゲホゲホ」と。自らこのオヤジへと化してしまった。
◆困った隣人(その2)◆
夢を見ている。女が大きくけたたましい声で男を怒っている。男は、弱々しい声で言い訳をしている。エキサイト女のそばで、シクシク泣いている女もいる。登場人物は以上この3人だ。しかも全て英語で会話をしている。夢うつつの中で「あれっ、英語で夢見てるぅ〜」な〜んて思っていたら目が覚めた。
しかし、目が覚めても例の登場人物3人の声は相変わらず聞こえてくる。その声の発信元はどうやら隣の部屋らしい。しかもドアを開けて部屋から1歩くらい廊下に出ているらしく、声が耳にストレ−トに入ってくる。うるさい、とにかくうるさい。モ−テル中にヒビキわたるすさまじさだ。好奇心旺盛な私はドアののぞき窓からのぞいてみようとした、「イヤ、待てよ。ここはアメリカだ。いきなり発砲事件にでもなって、ドア越しに撃ち殺されるかもしれない・・・」いきなり小心者になってベッドの上で聞き耳をたてることにした。このモ−テルの人でもいい、いや手っ取り早く違う部屋の人でもいい、事件になる前に誰かこの寸劇を止めてくれ〜、早くこの寸劇が終わるのを祈った。
待ってましたとばかりに、向かい辺りの部屋のドアが開く音がし、男の人が寸劇を注意する声が聞こえた。それに答え、エキサイト女の「I'm sorry」も聞こえた。これで一件落着と思いきや、さらに続く。あまりの早口に何を怒っているのかも聞き取れない。そして5分後、急にし〜んとなって寸劇は終わった。ピストルの音やうめき声が聞こえなかったので、どうやら事件にならずにすんだようだ。
翌朝、荷物の多い私たちは部屋から車へと何往復かして荷物を運んだ。相棒は車の暖気をし、私は忘れ物がないか部屋の最後のチェック。それを済ませ廊下に出ると、昨夜の大騒ぎ部屋のドアがわずかに開いている。視線を感じ目をやると、そこには5〜6歳の女の子が不安そうな顔をして指をくわえてこちらを見ていた。目が合ったので「ニコッ」と笑っても女の子の表情は変わらなかった。「はは〜ん、昨夜泣いてたのはこの女の子で、怒られていた男の声は多分この子のお兄ちゃん、エキサイト女はきっと母親だろう」と察した。モ−テルを出て車に向かうと、暖気している相棒に1人の30前後のインド系女性がなにやら話しかけている。「あっ、あいつは大声女で昨夜のことを謝りに来ているんだな。」と思った。彼女は私の気配に気づき今度は私に話しかけてきた。・・・が、どうも謝っているようではない。どうやらショッピングモ−ルまで乗せていってくれと頼み込んでいる。ショッピングモ−ルは、ここから10分ほどの所にあるが、その日は1番のロングラン移動日。10分とはいえ反対方向だし、荷物が多く人を乗せるスペ−スもないのでお断りした。「OK、no problem」と彼女は言い、さわやかに自分の部屋へと戻っていった。「フン、図々しいヤツめ!!」と思ったが、母親を部屋で待つあの女の子を思うとちょっと心が痛んだ。
どうかこの親子が無事ショッピングモ−ルまでたどり着けますように・・・・
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